子供心にショッキングだった絵本があります。
大型本で表紙のいわさきちひろさんのイラストが印象的だった『ひさの星』でした。
『窓際のトットちゃん』の表紙絵でも話題になりましたね。
こちらも母に何度も読んでもらっていました。
ここで語ることは憚られるほどの哀しいお話。
優しい無口な少女”ひさ”。
自分の服もボロボロになり傷だらけになりながら、犬に噛まれそうになった赤ん坊を助けても、それを母親にはわかってもらえない。かばってもらえない。
でも”ひさ”は本当のことを語らない。語ろうとしない。
小さな男の子が川に落ちれば、それは”ひさ”が突き落としのではないかと村人たちに誤解されてしまう。
「ひさが帰ってこない」
村人みんなで探し始めました。
でもひさは見つからないまま。
実は男の子を助け、そのために自分が溺れて犠牲になったことを村人たちはそこで初めて知る。
ひさの優しさを知る。
”ひさ”は星になった。
村人たちは後悔し、哀しみと失望を星の輝きに重ねていく。
理不尽な母親と大人たちの犠牲となった少女。
無口な”ひさ”は何も語らないまま星になった。
心では語りたかったはず。
これは私の想像なのですが….
”ひさ”は無口だったのではなく、度重なる大人の理不尽さに傷つき心を閉ざし、声が出せなくなっていた少女だったのではないか…?
「星になった」
と書かれているだけで、死を思い起こさせる言葉はなにひとつ書かれていません。
当時は人間の死について何もわからなかったけれど、哀しみと失望という感情を[理解]とかではなく[感じた]ように思います。
理不尽な大人や社会はいつの時代もあると感じる時、ふと思い出すのはこの絵本『ひさの星』です。
作者の心からの言葉と、いわさきちひろさんの繊細な筆致が”ひさ”という少女の繊細さを見事に表現していて、そのことも相まって”ひさ”という少女への思いを強くしたように思えます。
安曇野にある「いわさきちひろ美術館」にも足を運びました。
美術館でこの本を探して見つけ、手に取ったときの感動は今でも忘れません。
すぐに母に知らせたのを憶えています。
子供だった私になかったものを与えてくれた一冊です。
是非読んでみてください。
多くの子供達にも読んでもらいたい、世界に広めたい日本の絵本です。
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